謙也くん家のインターホンは異様な威圧感を放っとった。お、押すのがこわい。あ、脚ガクガクしてきた。脚と同時に腕も震えてその拍子にぽちっとボタン押してもうた。なんとも不本意な押し方や。間延びしたはーい、言う声と同時に玄関のドアが開いた。出てきたのは謙也くんやった。もともとがかっこええから私服着ててもかっこええ。ぶっちゃけ何着ててもかっこええと思う。

「謙也くんインターホン鳴ってすぐ出ちゃうタイプの人なん?」
「いや、そうでもないで。が来たなーって思ったから」

…ずきゅーん、ときめいたわやばいかっこいいっちゅーか今私頭どうかしとる。何か最近私謙也くんに惚れ直した気がする。ほんまに。謙也くんはもともとかっこええんやけどそれが私の目を通すとフィルターかかったみたいになってかっこよさ二割増しになったみたいや。

汚くてごめんな、と言う割には謙也くんの部屋は綺麗に片付いていた。聖域か何かに踏み込んでもうた感じがして一気に緊張が走る。部屋の床にイグアナが這っていることに違和感を感じるのもそのせいでワンテンポ遅れた。

「謙也くんイグアナ飼っとるんか」
「スピーディーちゃん言うんやでー、可愛ええやろ」

言われてじいっとスピーディーちゃんと睨めっこしてみる。なるほど、イグアナなんて至近距離で見たことなかったけど案外可愛ええな。目がキラキラしてて愛くるしゅう思える。可愛ええなあー!言うと謙也くんは少し驚いたみたいやった。

「イグアナ可愛いなんて言う女の子そうそういないで」
「せやろか、でもなんか、うん、可愛ええやん」
「せやろ?がわかってくれてうれしいわー」

一昨日蔵に進展したる!とか声高に宣言してきたけどもう無理やと思う。もうええわ話せただけで幸せや私。スピーディーちゃんに相好を崩す謙也くんがかっこよくてそれが見られただけでもうここに来てよかった。蔵とははあ?とか言いそうやけど。


***


英語のテキストを挟んで真向いに謙也くんが座っとる。はあかっこいい。金髪似合うとるなあ。テキストにはようわからん英文がぐちゃぐちゃ並べて書かれとる。

「謙也くん、これわからん」
「ん?見せてみ」

謙也くんの手が伸びてきた。私もテキストを謙也くんに渡すために手を伸ばす。と、私と謙也君の手がぶつかった。思わずびくっとして手引いてしもた。

「わ、悪い」
「ちょおびっくりした、だけ」

気まずい空気が流れる。謙也くんはちょっとあわてるようにテキストに目を落とした。それからそれをじいっと見る私とテキストとを交互に見て、一瞬ためらってから言った。

、そっちにおると教えにくいからこっち来て」

思わず硬直した。見てわかるくらいアホみたいに顔が赤なった。何照れてんねん!と謙也くんも釣られてか赤くなる。

「ええとそれじゃあ失礼します」
「は、はいどうぞ」

遠慮しながらそっと謙也くんの隣に座る。ち、近い。ただでさえ近いのに謙也くんはテキストを私のほうに広げて見せて解説を始めた。さっきより謙也くんがこっちに傾いとる気がすんねんけど。やばいまずいこれは非常事態や顔が熱い。次のテストの成績と謙也くんの声を逃さないよう必死で意識を傾ける。謙也くんこっち見たらあかんで、と心の中で猛烈に願った。今の私絶対ひどい顔しとる。ひととおり解説してもらって私も理解しきったところで謙也くんが私を見た。見ないで言うたやん!心の中で言うたから伝わらんのも当然やけど。


「な、何?」
「そない照れられると期待してまうで…ええの?」

今の私は生涯で一番顔が赤くて人様には見せられへん顔しとると思う。言うた謙也くんの顔も赤くて、なにこれ期待してええってどういうことなのそないに目立つくらい照れとったんか私恥ずかしいっちゅーか照れとる謙也くんさいこうですわほんまにごちそうさまでしたって言ってええんかな…!とりあえず頭ん中がごちゃごちゃすぎてようわからん。

「それってどういう」
「あー…なんでもないわ!ほな続きやろか」

謙也くんはまた慌てて机に向きなおる。私も取り落としかけたペンを握り直してテキストに向かったけど中身は全然頭に入ってこない。蔵、私今日ときめきっぱなしで心臓つらいわどないしよう。



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