を無事に家まで送ってから家に戻ってきた。スピーディーちゃんはつぶらな瞳をぱちくりさせて動揺しまくる俺を見る。今になって心臓がばくばく鳴っとる。ほんま、情けないにもほどがありますわ…震える手で財前に今日のことを綴ったメールを送ると光の速さで返信が来た。何やその返信速度。本文ほとんど読んでへんやろ。

ふと机を見ると、の好きそうな上品かつ女の子らしいペンケースが置かれていた。忘れものか、明日届けに行かんとなー…に話しかける口実が見つかってつい顔がにやける。ここで白石とか財前とかおったらツンドラの猛吹雪みたいな冷たい目で見下されて終わりなんやろうけど、今日はアイツらも今の俺をネタ扱いするだろうもおらへん。ええやろ別ににやけたって。だって好きなんやし。脳内で言い訳して勝手に照れた。何や今の恥ずかしい理由。

今日のは一段と可愛かった。私服着とるなんてそうそう見られるもんやないし、楽しみにしてたってええやろ別に。もうワンピース着てきてくれるなんて思っとらんかったわ。可愛さに悩殺されるかと思った。なんとなく胸元開いとったな…べっ、別に見えたとかそんなんちゃうわアホ!

スピーディーちゃんを抱き上げるとつぶらな目と俺の目が合う。そういえば何や知らんけど今日のは俺と目も合わせてくれなかったような…思い出した瞬間ごっつい絶望感に襲われた。何や、俺どう見たって脈なしやんか。思い返せばは白石とか財前と話しとるときのほうが目と目を合わせてきちんと向き合ってる気がする。俺は嫌いで目も合わせられんってか。

「どないしよう、スピーディーちゃん…」

がっくり膝をつくと急に俺が座り込んで驚いたのかスピーディーちゃんはぎょっとしてばたばたと手足を動かす。ああもう俺の癒しは自分だけやスピーディーちゃん!大きく肩を落とすと携帯の着信音が鳴り響いた。どうせ財前やろ。ほっとこ。俺はかけてきた相手の名前も見ずに電話を切って携帯をそこらへんにぽいっと投げ捨てた。アイツこういうときだけ無駄に行動力あんねん。そのアグレッシブさを日常生活に生かせや、日常に。

スピーディーちゃんを床に下ろしてベッドにダイブする。俺今日変なこと言うてへんかったやろか。困らせたりしてへんやろか。キモい男やと思われたらもう一巻の終わりっちゅー話や、いや冗談とちゃうで、ほんまに。最近思考回路が女々しくなっとる気がする。くそ、こんなんやからヘタレヘタレ言われるんやで。俺が一番わかっとるわ。どうにかしたいわ。なんで今日俺手ぇ出さへんかったんやろ。せっかく二人っきりやったんや、告白の一つや二つできたかもしれへん。考えれば考えるほど気分が暗くなってきた。

「あーくっそ、ほんま好きすぎてどうしようもあらへん」

なあスピーディーちゃん。を送ってから聞いた留守電には親からの「今日遅なるわ、堪忍な謙也」っちゅー微塵も申し訳なく思ってへんような短いメッセージが吹き込まれていた。つまり今日は家にほぼ誰もいない状態。目の前のスピーディーちゃんの黒い目が光った。

「なあスピーディーちゃん、俺な、のこと好きすぎるんや、どないしたらええねん」

イグアナに相談してもリターンもツッコミも返ってくるわけもない。真っ黒な目は俺をじいっと見るだけで、あとには何にもなかった。代わりにさっき放った携帯から、電話が切れる音が鳴り響く。
全身の血が凍りついた。うっわ俺なんてことしとるんや切ったつもりが電話取ってもうてた。恐る恐る着信履歴を確認する。どうか財前以外でありますように。

確かにそこに表示されたのは財前の名前やなかった。けど絶望的なのには何も変わりはあらへんかった。液晶には確かに「」という文字が誇らしげに書かれている。

俺は息をのんで、…死にたくなった。


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