もうかれこれ一時間は悩み抜いとるな、俺。浪速のスピードスターもこればっかりは苦手っちゅー話や。に送る文面は出来た。あとは送信ボタンを押すだけなんや。それが何や知らんけど出来へん。送信ボタン押すんにごっつい勇気いるんや。何回送信→中止の流れ繰り返したかなんてもう覚えとらん。

「だ―――ッもう嫌や!!イライラする!!」
「やかましいわ!」

叫んだら家族の声が飛んできた。スピーディーちゃんが何事かとびくつく。可愛ええ。と比べたら、…いややっぱのほうが可愛ええわ。堪忍な、スピーディーちゃん。謝った途端スピーディーちゃんが携帯の送信ボタンを躊躇なく押しよった。

「ちょっスピーディーちゃん何してくれてん!?ああでも可愛ええから許したる!ていうか俺ごっつ情けないやん!」
「もう黙れや謙也ァ!」

家族の声にドスが効いてきた。次うるさくしたら鉄拳制裁喰らうんやろな、おとなしくしとかな。

自分で送信ボタン押せへんかったとか情けなすぎるわ。何スピーディーちゃんに押させてんのや。アホか自分。アホやほんまにアホやいっぺん死ね。ついに送ってしもた言う謎の達成感と自力で送信出来へんかったことによる喪失感でいっぱいになって、もう何も考えたくないわ。あとはに任せよ。ヘタレな考えに嫌気がさしたけど諦めて俺はベッドへダイブした。


***


メールを確認するにはあと一回決定ボタン押すだけなんやけどなかなか押せへんまま軽く10分は過ぎとる。さっき着信音が鳴って、液晶画面見たら『忍足謙也』の文字。それだけで不自然に緊張して、いまだメールは見られてへん。

「ああああああ緊張する」
「何や、好きな子からメールでも来たん?」
「母さん私今なら爆死できます」
「標準語似合わんなあ自分」
「助けて母さああん」
めっちゃ情けない声で携帯差し出して机に突っ伏したら、ひょいっと母さんが携帯持ち上げていともたやすくボタン押しよった。ああ私の悩みはここで無残にも散った。

「母さんのアホ何してくれてん」
「ボタン押して欲しかったんとちゃうんか」
「ちゃうわ、もう口出しせんといて!」
「わかりにくい子やなー」

母さんはけらけら笑いながら携帯を私に押し返した。ストラップがちゃらちゃら鳴る。生唾飲み込んで、画面を見た。登録よろしく、あと勉強会今週末でええ?と書かれている。

「ど、どないしよう母さん、わ、私」
「口出ししてほしくないんやろ?」
「これは口出しやないアドバイスや」
「普通に空いてるよーでええんやないの?」

何赤なっとんねんただのメールやで?母さんはいよいよ爆笑しだす。笑いごとやないんやで真剣なんやでもうそんな軽く流すような人のアドバイスも慰めもいらん!言うたら母さんは「ま、頑張りや」とバカにしたように笑った。ひどい親やほんまに。それから急に勇気がなくなってメールを返せたのがその一時間後だったのは言わずもがなっちゅー話。



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