「謙也君、タオルー」
「おおきに」
「…その遠距離からどないしてタオル手渡しするつもりなんですか」

今、謙也さんと先輩の距離はざっと五メートル。先輩の両手にはドリンクとタオル。あんたそれ投げるつもりか。謙也さんも何キャッチする体勢になってんねん。タオル手渡しもできへんのか。前はちゃんと渡してたはずなんやけど、またなんかトラブルでもあったんかな。

「いや、お互いがお互いの番号聞くつもりなだけや」
「部長、進展してるはずがどうみても遠ざかってるようにしか」
「…ここでちゃんと進展するはずやったんやで…?」

ここで自分らが勇気出さな俺がにどやされるんやで、白石部長は頭抱えて悩みだした。…先輩ってあれか、先輩のお守り(失礼)係兼親友のあの人か。4月に立海から転校してきたとかいう。たしかえらい美人やったと思う、先輩と先輩でどっちのほうが好み?みたいな会話をクラスの女子がしとったような(不思議と女子に人気ある先輩やなーとそん時は感心した記憶もある)。先輩はあの性格だからね、とかそんな理由で先輩が断トツで人気やった。先輩それでええんか。

「謙也君、私ノーコンやからうまく投げられんかも」
「キャッチしてみせるで」
「手渡しすりゃええやろ!」

耐えかねた部長が猛ダッシュ、先輩の背中を押して突き飛ばした。反動でおもろいほど先輩は前に倒れつつ進む。部長は力あるなやっぱり。こんなとこで再確認するのもなんか変やけど。先輩は謙也さんの30センチくらい前でぎりぎり止まった。何や、そのまま倒れ込めばよかったんに。

「白石ィ…」
「蔵ァ…」
「なんで俺をそんな目で見るんや!それより自分ら聞かなあかんことあったんやろ」
「「…」」

あーあ部長空回りしとるわ。あの二人がヘタレすぎるのが悪いわこれは。二人は気まずそうに押し黙る。うっわ居心地悪なってきた。

「えっと、ば」
「…ああ、番号教えてくれへん?」
「…あ、うん」
「俺今持っとらんのや、部室行ったらでええか」
「うん」

何やこれ、珍しく謙也さんが積極的や。先輩は通常運転でヘタレのままやけど、謙也さん何かあったんか?部長も呆気に取られた顔しとる。

「あと、タオルええか」
「あ、うん、ごめん」
「謝らんでええよ」
「…謙也君って兄ちゃんみたいやな」
兄ちゃんおるん?」
「おらんけどなんかそんな感じする」
「せやろか、何やうれしいな、の兄ちゃんか」

おかしいな、夢でも見とるんちゃうか俺。あんな普通の友達みたいに会話が進んどる二人見たことないわ。部長は二人も成長したんやなー言うて嬉しそうな顔しとるし、え、俺がおかしいんか?


***


解せんまま部室に入った瞬間、謙也さんが頭抱えてぶっ倒れた。部長が(半分面白がりながら)起こすと、謙也さんは茹蛸みたいな顔しとった。

「しらいし、しらいし」
「何や」

部長、明らかに笑い噛み殺しとるで。気付かん謙也さんもアレやけど。俺もにやけんようにするんで必死でとても会話になんか加われそうもあらへん。

「お、俺、がんばりました」
「よく出来ました」

標準語の謙也さん何かキモいわ。せやけどこれで合点がいったわ、やっぱり部長の入れ知恵やったっちゅーことか。失礼やけど謙也さんが自力であんなことできるわけあらへんもんな。アホやしヘタレやし。何でモテるんやろこの人。

「変やなかった!?」
「平気平気」
「嘘や白石ニヤついとるやん」
「大丈夫や、にはバレてへん」
「バレるって何ややっぱり変やったんやな俺…」
「あんまり気にせんでええと思うで」
「気にするわ!自分今めっちゃ笑てるやん!」

突っ込まれた途端部長が盛大に吹き出した。めちゃくちゃ人をおちょくった笑い方やな。白石のアホー!言う謙也さんがなんとなく涙目になっとるから、釣られて俺も笑てもうたら謙也さんが涙目で睨んできよった。全然怖ないわ。

「…ま、これでも惚れ直したんとちゃうんか」
「ん?白石何か言うたか?」
「いや別に何も」

…こんなんでよくお互い気付かんな、あの二人。尊敬に値する鈍さやわ。



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