「ね、あんたさ、忍足に勉強教えてもらいなよ」
「えええっ!?」

昼休み、食事中に何気なく言ってみる。するとはおおいに動揺して肩を跳ねさせ、その拍子に箸を取り落とした。いちいち大袈裟なの反応を見ているとつくづく、愛されてるなあ忍足、なんて思う。

「あんた英語苦手でしょう?忍足は得意だって」
「せやけど…」
「何よはっきりしないわね」

は卵焼きを口に運ぶと口を尖らせてふて腐れたような顔をした。のこの顔が一番可愛いもんだから、ついいじめたくなってしまう(もちろん悪い意味ではなく)。

「そ、それってもしかして二人きり…とか、だったり、する?」
「そりゃあそうでしょうね。何かよくないことでも?」
「恥ずかしいやろ!私が!」
「あんたねえ…」

もしも付き合うことになったら二人きりになる機会なんてべらぼうにたくさんあるんだからね、今から慣れておかないでどうするつもり?幻滅されて即刻別れるなんてことになるかもよ?それにあんたこないだは二人きりの空間に耐えられなくて告白できなかったんでしょ?だったらなおさら慣れなきゃいつまで経っても忍足の中であんたは「話しやすい女友達」くらいの位置付けのまま動けないわよ!とにかく進級までには告白!いい、わかった!?

…一息にまくし立てる。噛まなかったのは奇跡的だと思う。若干嘘を含んではいるけれど今はあんまり関係ない。は気圧されたように箸を加えて呆けている。「わかった?」念を押すように聞くとはこくこく頷いた。

「じゃあ部活の時にでもアドレス聞きなさいよ、忍足には白石から言うよう頼んであるから」
「あ、アドレス…?」
「当たり前でしょ。連絡先聞かないでどうやって予定立てるつもりなの」
「せやけど…」
「なんてメールしたらいいかわかんなーい、なんて質問は受け付けないわよ」
「な、なんでわかったん?」
「あんたのことなんかお見通しよー」

にやにやしながら言うとは、ってなんでこうも考え当ててくるんやろ、エスパーなんかな、とかぶつぶつぼやきだした。

「せいぜい頑張りなさいよ、うまくいくと思うから」
「他人事やからって適当やな」

はうんうん唸りながら忍足へ送るメールの文面について悩みだした。まだアドレスも聞いてないのに、気が早いってば。


***


「謙也、に英語教えたって」
「はあ!?ちょ、え、はあ!?」
「そない驚かんでも」

昼休み、食事中にさりげなく言うてみると謙也はえらい驚いて椅子から数センチ腰を浮かした。ほんまには愛されとるんやな、謙也のオーバーリアクションなとこ見とるといっつも思う。

、壊滅的に英語できへんのや」
「そんなん白石が教えたらええやん」
「…それ素で言うとる?」

無欲っちゅーか、アホっちゅーか。もっと好きな子との接点が欲しい思ったこともないんかいな。そこでいいとこ見せんでどうすんねん、蹴飛ばすと謙也はむせて、せやな俺アホやったわー言うて菓子パンをかじる。自分素で言うとったんかい。考え無しな奴やなほんまに。

「そしたら、それもしかして、二人っきりとかやったりするん?」
「せやろ。二人っきりに何か不都合でもあるんか?」
「は、恥ずかしいやん!」
「自分なあ…」

いい加減にせえや、もしも自分ら付き合うことになったら二人っきりになる機会なんざべらぼうにたくさんあるんやで、今から慣れておかんでどないするんや、ええ?謙也がヘタレすぎて幻滅されて即刻別れる、なんてことになるかもしれへんのやで?それに自分こないだ二人っきりの空間に耐えられんかったから告白できひんかったんやろ?ならなおさら慣れなあかんで、でなきゃいつまで経ってもの中で自分「話しやすい男友達」ポジションから動けへんで?とにかく進級までには告白!ええか、わかったな!?

…一息でまくし立てたら謙也は唖然と菓子パンくわえとった。あんまりにもアホ面やったから口に菓子パン押し込んだったら死なす気かアホ、とようやっと口開きよった。「ええか?」念押すと謙也はこくこく頷いた。

「部活の時にでもアドレス聞いとけ、にはから言うよう頼んであるから」
「あ、アドレス…?」
「交換せんでどないして連絡取るつもりやったんや」
「せやけど」
「メールに何書いたらええかわからんっちゅー質問は受け付けへんで」
「な、なんでわかったん!?」

自分エスパーか、スプーン曲げられんのか、サイコキネシスとか出せんのか、謙也がぎゃあぎゃあ言うとるけど、ただ単に謙也がわかりやすすぎるだけや。

「ま、せいぜい頑張りや。なんとかなるやろ」
「他人事やからって適当やな」

メールに何書いたらええねん、とかぶつぶつ謙也が言い出した。まだアドレスも聞いてへんのに、気が早いわ。




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