「なあ白石、知っとった?」 「何を?」 「、好きな奴おるんやて」 思わずお茶吹きかけたわ。謙也が急に不安そうな顔するから何かよくないことでも起きたんかと思っとったけど、そういやこいつの世界は今んとこ中心に回ってるんやったな忘れとった。 「そいつイケメンらしくてな、どないしよう俺勝てへんかも」 謙也それめちゃくちゃナルシな発言やで。ただ単に自分が気付いとらんだけで。 「誰に聞いたんや」 「。の友達の」 「あー…」 も俺と同様アホの恋路をおもろがって応援してんのやろなきっと。なんべんか話したことあるけどアイツ愉快犯っぽいとこあるし。あながち間違ってはないけど言い方が意地悪い情報ってとこやな。針小棒大な話し方はもうアイツの十八番言うても過言やない。 「、そいつにベタ惚れなんやて」 「けどは惚れっぽいから告白したらコロッと落ちるで」 「悪い、白石からの情報でも今は信じられへんわ」 「どんだけ自信なくしてんねん」 謙也は幸せがごっそり逃げて行きそうな深いため息をついた。何や似合わんな、浪速のスピードスターが形無しやな。 「自分、明日あたり告白したらどや」 「な、何言うてんねん白石ィ!?」 「そない驚かんでも。自分浪速のスピードスターやろ」 「そこでそれ言うなや…」 「自信喪失したら負けやで謙也」 謙也の肩を叩くと謙也はまた深いため息。だから似合わんて。恋患い言うやつか。恋に悩む謙也とかギャグやないか。見てるんはおもろいけど、もうそろそろほんまにくっつかんかな。待ちくたびれとんのや、俺も財前も皆も。 *** 「光ちゃん私死ぬかもしれへん」 「お通夜には出たりますわ」 「死ぬ前提で話さんといて!」 「自分が死ぬ言うたんやろ」 この世で自分が一番不幸なんですとでも言いたげな顔で先輩が教室に来た。絶対謙也さんの話や。もう嫌や誰か代わって。 「あんな、謙也君好きな人おるんやって」 「…」 ああそれ俺知ってますわ。あんたですわ。俺だけやなくて先輩以外の全校生徒が知ってますわ。謙也さんベタ惚れもいいとこです。最近謙也さんから惚気メールばっかり来るから付き合うてるんやと思っとった。まだなんか、じれったい人らやな。 「それ誰から聞いたんですか」 「蔵とに聞いた。めっちゃ美人なんやて、もう私に勝ち目ないねんな」 先輩それめちゃくちゃナルシな発言やで。ただ先輩が気付いてへんだけで。 「何自信喪失してんねん、らしくないっすわ」 「私自信たっぷりだったことなんてあらへん!」 「そうですか、そんなんどうでもええわ」 駄目やこの人テンション高くても低くても面倒くさいわ。この世の終わりみたいな顔で、光ちゃんどうにかしてえな、頼むわ、とか言うてる先輩には先輩としての威厳が見当たらんねん。もう謙也さんが先輩持ち帰ってくれたら楽なのに。 「それじゃあ告白でもすればいいんとちがいますか」 「め、迷惑じゃない?」 「告白が迷惑なのは俺くらいです」 「光ちゃんそれ厭味?でも告白なんて無理やで」 「どこが無理なんや、言うだけやないですか」 「あんなあ光ちゃん、あの一言にどんだけ重みがあると思ってん?口にするのに一時間はかかるで」 ヘタレすぎる先輩を言いくるめようともう一度口を開きかけたとき、教室の扉がガラッとまた開いた。そこに立っとった謙也さんを見て、先輩は硬直する。ちょっと顔が赤い。顔見ただけやないか、別に照れるとこやないで。謙也さんだけやあらへん、こっちもベタ惚れやった。 「、ちょっと話あんねんけど」 クラスが一気にざわつき始めた。おお、ついに来たか、告白すんのやろか…よう聞こえんけど確実にそういう話をしとるんやろ。俺はそんとき自分でも底意地悪い顔しとったと思う。 「ご指名やで、先輩」 「光ちゃん、通夜には出てな」 ほんまに先輩訳わからん。きっとめちゃくちゃテンパってんやろな。耳まで真っ赤やで、言うたら光ちゃんのアホ、てデコピンされた。そのまま先輩は謙也さんに連れられ廊下に消える。 …謙也さん、告白するんやろか。なんか子を見守る親みたいな気持ちになった。俺年下やけど。 →next |