「蔵、私好きな人おるんや」
「謙也やろ、知っとる」
「えっ何で!?蔵にはバレないように気ィ使ってたのに」

アホか、モロバレや。神妙な顔して何言い出すかと思えばそれか。きっと謙也以外の四天宝寺中学生全員それ知っとるで。あからさますぎやから。なんで謙也が気付かんのか俺にはまったくわからんくらいにはバレバレや。

「そんなに広まってんの、やっだもう蔵のアホ恥ずかしいわ!」
「いだっ」

照れ隠しに肋骨折れそうなビンタを背中に喰らった。俺が言いふらしたんとちゃうで!ていうか自分女友達相手にこれやってへんやろな、華奢な子が喰らったら確実に骨折するで。俺も不意打ちやったからかなり咳込んだ。

「ああごめん蔵、で聞きたいんやけど」
「何や暴力女」
「うるさいわ。…忍足君て私のことどう思っとるんやろか」
「…」

謙也は に惚れてるで。めっちゃ惚れてるで。骨抜きもいいとこや。ベタ惚れや。何で気付かんのやこいつ。アホなんやな仕方ないな。

「嫌いじゃなさそうやしむしろ好きなんやない?」
「ほんま?それほんまやったら私死ねるで」
「そか、死んでまえ」
「蔵最低やー!」

 

は机に突っ伏して喚いた。自分が死ねる言うたんやないか。
一応言うとくとここは放課後の教室で、なんで俺達がここにいるかというと俺が に勉強教えてやっとったからや。こないだ二学期が始まってすぐの明後日に数学の小テストがあって、そのテスト対策勉強や。感謝せえ 。感謝の気持ちを表されるどころか最低言われたけど。チッと舌打ちすると はまた最低やーと喚いた。うるさいわ。

そこでガラッと教室のドアが開く。入ってきたのは噂の忍足君やった。 はヒッと息を呑んでちょっとだけ顔を赤くする。だから周りにバレるんやって。

「白石こんなとこで何しとんのや…あ」
「ど、どーも」

に気付いた謙也も赤くなった。だから自分らなんでこれだけわかりやすく両思いなのに気付かんのや。 も謙也もなんとなくそわそわし始めた。あかん、居心地悪なってきたわ。ただこいつら見てるぶんにはおもろいからもうちょい見てようか。

「あ、 さんどうしたん?」
「い、いや蔵に数学教わってたんや」

どもんなや!ハッキリ喋れや!なんやこいつらむず痒いわ!
それはともかく蔵って聞いた瞬間の謙也の顔は見物やったな。あとで財前あたりに言いふらしたろか。思いっきり嫉妬してたで。男の嫉妬は醜いな。

「…蔵?」
「ああ、幼なじみやから」
「そ、そーか付き合うとるのかと思ったわ!」
「こ、こんなんと付き合う訳ないやん忍足君勘違いせんといて!」
「す、すまんなあ」

何か凄く物申したいわ。こんなんて何や。あとでしばいたろ。謙也の目がふわふわ泳ぎはじめよった。緊張しとるらしい。まさかとは思うけど告白するんかな。しないやろな。

「あ、あの さん」
「な、何?」
「な、名前で呼んでもええ?」

名前かいな!告白はせんと思っとったけど名前呼びでそない緊張してどうすんねん!まあそれでもヘタレな謙也にしちゃよう頑張ったほうやな。 は豆鉄砲食らったみたいた顔しとる。それからこくこく頷いた。ここまで がテンパるんも久々や、いいもん見たな。

「ちょっと呼んでみ」
「白石何言うとるん恥ずかしいやんかー!」
「名前呼びするんやろ自分ら」
「せやけど」
「……………け、謙也…君」

茹蛸みたいになりながらちっさい声で が言うた。呼ばれた謙也はみるみるうちに真っ赤になっていく。やっぱおもろいなこいつら。謙也も口をぱくつかせて何か言おうとしとった。

「……………
「う、うわああ改めて呼ばれると恥ずかしいねんな」
「謙也かて真っ赤やで」
「白石うるさい」

俺を責めてどうすんねん。突っ込むと謙也は思い出したように自分の机漁って、忘れ物したから取りに来ただけなんや、とか今更な言い訳並べ始めた。別れ際にひらひら手を振って持ち前のスピードで走り去る。浪速のスピードスターの名は伊達やないな。ここで発揮しても仕方あらへんけど。恋愛においては足踏みしとるけど。

「蔵…」
「なんや
「これがエクスタシーなんやね…!」

名前呼びだけで絶頂か。頭ん中幸せな奴やな。物凄く馬鹿にしてやりたなったけど、あんまり が幸せそうな顔しとるからやめといた。こいつらくっついたらどうなるんやろ。早よくっつかんかな。



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