「光ちゃん聞いてー!」

新学期早々騒がしく一年の教室に飛び込んできた 先輩に俺のクラス中の視線が集中する。まだ暑いのに元気やな。相手するだけで俺はバテるけどな。 先輩はそんなこと気にもせず俺の席へまっすぐ歩み寄り、ばん!と机を叩いた。ちょ、机壊れたらどうすんねん。一応学校の備品やし、何より凄い音したで。あれは小柄で華奢な女子の出せる音やなかった。ちっこい体のどこにそんな力が秘められとるんか俺には予想もつかん。なんで謙也さんはこんなんに惚れたんやろ。
先輩は俺の一個上の先輩で、学校きっての有名人白石蔵ノ介の幼なじみってことでそれなりにこの学校じゃ有名な人や。サバサバしてて取っ付きやすいのに美人やからイケメンの幼なじみっちゅー恨まれやすい立場にいるにも関わらず敵がいない、ある意味稀有な人やと思う。

「机壊れたらどないすんねん」
「んー、そん時はそん時!それより聞いてや光ちゃん」
「光ちゃん言うのやめてくれたら聞きますわ」
「ほんなら聞けい財前!」
「先輩うるさいっすわ」

なんやこの人元気すぎて疲れるわ。いつもハイテンションな人なわけじゃあらへんし、どうせまた謙也さん絡みの話やろ。あー面倒くさ。謙也さんっぽく言うと、片思いのどうでもええ惚気聞かされるこっちの身にもなれっちゅー話や。

「あんな、」
「謙也さんが挨拶してくれたって話は一昨日も聞いたで」
「あ、知っとるん?なら話早いねんな」

それから長々と聞かされた話を要約すると、一昨日からずっと謙也さんに挨拶してもらえて嬉しいと、それだけやった。そんなこと言うだけなら部長に言ってこい言うたら 先輩はあからさまに嫌な顔をした。

「蔵は忍足君独り占めするから嫌や、テスト期間以外は世話になりたない」
「そんなん自分が謙也さんに話し掛ければいい話やん。幼なじみの親友なんでしょ?」
「駄目や!蔵に忍足君取られてまう!」
「先輩話聞いてます?」

もう嫌やこいつ会話破綻しとる。全く噛み合わん。この際部長でも謙也さんでも誰でもいいからこのアホ連れ出して。

「あ、それでなまだ話は終わってないんやで」
「聞きたないですわ」
「忍足君と目がよく合うんや」

ああそれなら知ってますわ。謙也さん喜々として語ってましたもん、最近 さんとよう目合うんやでーって。あんたら早よ付き合うてくれますかね、それで早いとここっちに愚痴りに来るのやめてほしいっすわ。


***


「財前見たか?今 さんこっち見たで?財前やなくて俺見たで?」
「はあ」
「生返事やめろや虚しゅうなる」

先輩は帰宅部やけどたまに男子テニス部を眺めに来たりする。目的は謙也さんに会うことなんやろうけどお互い目が合うて一瞬で目逸らし合うてたら意味ないやん。どうでもええけど。そういうわけで 先輩が来ると謙也さんはそわそわしだす。ダブルス練習中なのにお構い無しに 先輩チラチラ見とる。いい加減にせえやこの浪速のスピードスター。もたついてどないすんねん。

「練習終わったら声掛けたらええやないですか。今は練習せな」
「…あかん、無理やどうしても視線が さんに」
「アホや、謙也さん真性のアホや」
「自分、俺が先輩なの忘れとるやろ」

謙也と財前うるさいでー、と部長の声が飛ぶ。言うとくけど俺は悪ない、悪いんは謙也さんや。謙也さんのせいでグラウンド10周追加されたらどないしたろか、とりあえずぜんざい奢らせたろか。




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