俺が柄にもないことを急に言ったのも悪いかもしれないけど、そもそもが口説き文句まがいのことを言われたことがなくてつまりは甘い言葉に全くと言っていいほど耐性がないだけで、要するにこの件においては俺は悪くないと思う。にもかかわらずあれからとは必要最低限の会話しかしないほど疎遠(というのはちょっと大袈裟かも)になっていた。というよりもが俺を避けている。目が合っただけで即刻逸らされるし、話し掛けても返事もそこそこに何だかんだと理由をつけて逃げられるし、何俺嫌われちゃったわけ?

先輩達も先輩達で迷える後輩を救ってくれそうな気配も見せない。マジで非情。タオルやドリンクを渡しにが俺に近づいてきただけでニヤつく先輩達の視線に晒される。はそのたびにはい、とか死にそうな声で言うもんだから俺も釣られて恥ずかしくなるし、本当にどうにかしてもらいたいもんだ。まず副部長はこの手の話題は苦手そうだし、柳先輩や柳生先輩は優しいけれどあんまり手本にはしたくない。丸井先輩と仁王先輩はニヤついてばっかりでなんの打開策も出してくれないし、ジャッカル先輩にこれ以上苦労をかけさせるわけにはいかない。幸村部長など言語道断、あの人に相談しようものならどう悲惨な状況になるかは容易に想像できる。

「まあここまで純粋に恥ずかしがられると赤也も肩身が狭いじゃろうな」
「わかってますよそんなことは」
「じゃあ普通に接してやればいいだろい」
「む、無理ですよ馬鹿!」
「今なんで馬鹿って言われたのかまったく理解できねえや」
「先輩が馬鹿っぽく見えたんじゃないっスか?」

さりげなく会話に割り込んでみるとそうとう驚いたらしいがびくっと震えた。なんだよ急にしおらしくなっちゃって。可愛いけど。仁王先輩は横目でそれを見ながらやっぱりニヤついた顔で、

「なんで普通に話すこともできんのかいっぺん考えたほうがいいぜよ」

の頭を撫でる。女の子扱いに極端に慣れていないは恥ずかしそうにいっそう縮こまった。くっそ可愛い。だけどこの可愛い顔にさせてんのが仁王先輩だってことがムカつく。

「だって恥ずかしいんだもん」

口を尖らせてはぼやいた。ああもうお前は俺を殺す気か。死ぬほどもやもやする。丸井先輩がわしゃわしゃとの髪を掻き撫でた。

「お前はときどきめちゃくちゃ可愛いよなあ」
「…っだああああもう何してんスか離れて下さい!」

もう耐えられねえ。俺は無理矢理と先輩を引きはがした。じとっと先輩を睨みつけると先輩はおーこわ、とかなんとか言いながらから手を離した。嘘つきもいいとこだ、そんな楽しそうな顔しやがって。

「赤也、男の嫉妬は醜いぜよ」
「は、嫉妬?」

きょとんとした顔のの頬が心なしか赤い気がする。仁王先輩は意味深に薄笑いして、まあにもそのうちわかることじゃ、とひらひら手を振って行ってしまった。去る仁王先輩と反対方向に目をやった丸井先輩が青い顔をしたので何かと思えば、うわ、副部長が眉間に青筋を刻んでいた。怒られるよ赤也とがか細く言うもんだから仕方ない、練習に戻るか。
その時のがどんな顔をしていたかなんて、俺は知る由もない。




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