「そりゃあ恋だな」

一部始終を見ていたらしい丸井先輩に相談してみた結果がこれだ。ふざけんな、恋愛対象外だって思ってた赤也に私が、まさか…とは思うものの、今まで「手のかかる弟分」程度の認識だったのに急に赤也がかっこよく見えてきちゃったものだから反論できない。誰か助けてくれそうな人もいるはずがなく、ただただ悩み抜くことしかできないままだった。無意識に赤也を避けているのもわかっている。家に帰ってから気づいて毎回申し訳ない気持ちでいっぱいになるのだ。ただわかってほしい、すべて赤也があんなことを言うからいけないのだということを。悲しいかな、あの手の言葉(つまり口説き文句)は生まれてこのかた一度も言われたことがないのだ。要するに耐性がないだけで、他の人に同じこと言われてたらきっと惚れたに違いない、たまたまそれが赤也だっただけだ。などと並べ立ててみても、それらは所詮言い訳でしかなかった。現状打破の手がかりになりもしない。

「そもそも、考えてもみろよ」
「何をですか」
「どうして赤也があんなことを言ったのか、じゃろ」

突然仁王先輩が会話に入ってきた。その口ぶりからして、どうやらこの件は隅から隅まで仁王先輩に筒抜けのようだ。丸井先輩を責めるように見ると先輩は知らん顔で肩を竦めた。

「どうしてと言われましても」
「わかんねえ?」
「…恥ずかしながらまったく」
「赤也も大変じゃのう」

どうしてここで赤也の名前が挙がるのかはさておき、丸井先輩と仁王先輩がいかに私を馬鹿にしているか今の会話だけでわかってもらえたと思う。二人して紅白でおめでたい髪色しやがって。なんの罵倒にもなっていないことにはもう突っ込まないでほしい。

「じゃあ聞くが、お前さんは好きでもない相手に可愛いとか言うか?」
「言いませんけどそれが何か?」

お前わかってねえなという目で先輩達は私を見た。哀れみと軽蔑のこもった二人分の眼差しが痛い。

「お前わかってねえな」
…ええ、言われると思ってましたとも!

「ここでのお前の思う『好き』は友情とか家族愛だろい?」
「まあ確かに」

まずい、どんどん話が核心に近づいていっている気がする。仁王先輩どこまで知ってるのかな。これは確実にお前赤也のこと好きなんだろと問い詰められる空気だ。仁王先輩にバレでもしたら放っておいてもらえるはずがない。

「お前さんも赤也を好きなら察してあげんと奴も可哀相ぜよ」

やばいバレてたあああああ!丸井先輩を口止めするまでもなかった!口止め料はフラン一箱でいいかなとか考えてる場合じゃなかった!私は馬鹿か!馬鹿ですごめんなさい!

「今更恥ずかしがる必要はないき」
「恥ずかしがってないです」
「そのわりに顔真っ赤じゃが」
「…もう許して下さい…!」
「で、話戻すけどさ、赤也って手放しで人のこと褒めねえの」

それは私も知っている。テニスにおいても私生活においても、赤也は人を手放しでは褒めない。まあ俺がいつか追い抜かしてやるけどな!とかそんな台詞が申し訳程度にくっつくのだ。

「それなのにお前のこと可愛いって言ったんだぜ?」
「は、はあ」
「わかってねえなお前ほんとに」

丸井先輩は諦めたようにため息をついた。仁王先輩も呆れ顔で、これじゃやっぱり赤也は可哀相じゃのう、とぼやいていた。なんだ二人して私を置いていって。非情な先輩に泣かされるのはこういうときだ。

、よっぽど天然タラシか、それか相手の女に惚れてない限り、男は女に可愛いなんて滅多に言わねえもんなんだよ」
「えっそれってどういうこと」

尋ねかけたところでチャイムが鳴り響いて、私は失礼します、と慌てて駆け出した。別れ際に見た二人の顔はそれはそれは楽しそうで、ますます恥ずかしくなってきた。先輩に恋愛相談なんてするものじゃないなと思って教室へと駆け込む。 遅刻、と国語教師が呆れ果て、クラスは私を笑った。



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