「バカバカ宍戸のバカーッ!」
「うるせえテメエのほうがバカだこのバカ!」
「バカって言ったほうがバカなのよこのバカ!」
「は、テメエが先にバカって言ったんじゃねえか」
「あーもーうるっさいわ収集つかへんから黙りいや!」

侑士が大声を出すと、と宍戸はびくりと竦んで固まった。それからお互い睨み合って、「宍戸のせいだ」「いーやが悪い」とか言い出す。ムキになってまた言い争いは白熱し、あれっちょっとお前ら顔近くねえ?めちゃくちゃ至近距離で小学生以下の論争を繰り広げはじめた。侑士の頭上にイライラって四文字が浮かんでいるのが見えるけど、うんたしかに公衆の面前でいちゃつかれたら誰だってムカつくよな。俺も今ちょっと殺意沸いてる。

「はあ、先輩たち何いちゃついてんですか邪魔です」
「「うるせえ日吉、あと別にいちゃついてねえから!」」
「はいはいお二人さんは息もピッタリやなー、で何があったんや」

侑士が聞くと二人は拗ねたように黙って、「お前が言えよ」「いやお前が言えよ」とか押し付けあっている。漫才か。お前らは芸人か。なんでそんなに息合ってんだよ。俺も幼馴染だけどこいつらなんでこんな仲良いんだよ。最終的にじゃんけんをして、負けたがぶつぶつ言いだす。いやじゃんけんで円満に決められるくらい心に余裕があるなら最初から喧嘩すんなって話なんだけど。

「…宍戸があ、私の弁当の卵焼き、たべた」

お前らそんなくだらねえことで喧嘩してたのかよ!小学生か!ツッコミたくなるのを抑えて侑士を見ると珍しくぽかんとしていた。そりゃあさすがの侑士だってこんなわけわかんねえ理由で騒がれたくないよなあ「ああ悪い今ちょっと心閉ざしてたわ」心閉ざしたくなるほどの精神的ダメージ与える話題だったか今の。そういうボケ今いらねえんだけど。めんどくさいんだけど。クソクソここに常識人は俺と日吉しかいねえのかよ!

「んなくだらねえことでキレられなきゃいけねえ理由がわからねえんだよ」
「宍戸は!知らないんだよ!わたしがいかに今日の卵焼きを楽しみにしていたか!」
「知るかよそんなん!宍戸好きなもの食べていいよーとか言ったのお前じゃねえか!」
「好きなものとは言ったけど卵焼きくらい遠慮するでしょ常識的にさあ!」
「しねえよどんな常識だそれ!」

…あれ、なんかマジでコントに聞こえてきたんだけど。宍戸もそれ逆ギレみたいなもんじゃねえか。クソクソ侑士はさっさと心閉ざすのやめろよ!

「卵焼きといいなんといい、最近の宍戸はほんとひどいよね」
「俺が何したって言うんだよ」
「ちっちゃい頃は名前呼びしてくれたのにさあ、最近は苗字呼びだしさあ、素直じゃないしさあ、挨拶しても返してくれないしさあ、つれないんだもん宍戸ひどいよね!そう思うでしょがっくん」
「は、はあ?そういうお前だって昔は俺のこと亮って呼んでたのに今じゃ苗字呼びじゃねえか、その割に岳人のことはがっくんのままだしなあ俺のこと嫌いなんじゃねえの、なあ岳人?」

ちょっと待てどうして俺が巻き込まれてんだ。日吉に助けを求めるべくアイコンタクトを試みるも、アイツは総スルー。このやろーあとで覚えてろよテニスでめっためたにしてやるんだからな…!

「ねえなんとか言ってやってよがっくん!」
「そうやでがっくん!」
「侑士は余計だっつーの!っていうかそれ俺関係ねーし!」

もう知らねえ。匙を投げるとと宍戸は「あんたのせいでがっくん怒ったじゃないのよ」「俺のせいなわけあるかバカ」だから二人とも顔近えって。侑士もさっきちょっと茶々入れただけでまただんまり状態に戻っちまったし日吉は…おいアイツ何一人で勝手に茶入れて飲んでんだおい!日吉お前も大概常識ねえな!

「宍戸のわからずや!…もう宍戸なんか、知らない!」

突然が宍戸をパーンという小気味良い音とともにビンタして立ち上がって部室を弾丸のように飛び出した。頬っぺたを赤く腫らした宍戸がきょとんと開けっぱなしのドアを見ている。侑士はやっと現実世界に帰ってきたみたいで、俺はびっくりして5センチくらい浮いた。日吉はといえば「…あ、茶柱」なーんてぼそっと呟いてた。…もう日吉なんか、知らない!とよろしくビンタしてやりたい気持ちになったのは言うまでもない。

「…え、今俺なんでビンタされたんだ」
「話聞いとらんかったわ、俺にもわからん。岳人は?」
「俺も話よく聞いてなかったしわかるわけないだろ…一応聞くけど日吉は?」

一応平等に、と思って日吉に話を振ると、日吉の奴は「なんで俺に振るんですか」と言いたそうに嫌な顔をした。協調性こんなにないのに跡部倒して下剋上なんてできるのかコイツ。宍戸がため息混じりで何か言いかけたとき、日吉は淡々と湯呑を机に置いて言った。

「宍戸さんがさんのことをガキだと言ったから、じゃないんですか」
「えっ宍戸お前そんなわかりきったこと言うたんかわざわざ」
「ひっどい言いようだなおい」
「…言ったけど」

宍戸は拗ねたように吐き捨てた。
俺の知る限りだと、は子ども扱いが嫌いだ。背がちっちゃくて(俺が言えた話じゃない?う、うるせえ!)発育はイマイチで大人っぽい恰好は似合わないからどうしても幼い恰好をするから余計ちっちゃく見える。お前本当に中学生?って言いたくなる。鳳と日吉は最初と会ったとき後輩と勘違いしてた。だからこそは昔から子ども扱いを極端に嫌う。理由が子供っぽいけど。

「あー…そりゃあ言うたらあかんかったな」
「子ども扱いされたくなかったら卵焼き程度でキレんなって話だろ」
「せやな」
「でも、いいんですか宍戸さん」

日吉はツンドラの永久凍土みたいな眼差しで宍戸を見た。うっわ怖え。毎日日吉にダル絡みしてあの視線に晒されても平気でへらへらしていられるの凄さを俺は改めて知った。

さんガキですからあのままだと『宍戸なんかとは絶交してやるんだから!』とか思いながら追いかけてきてくれるの待ってるんじゃないんですか。屋上とかで」
「知るかよそんなの」
「…今行かなかったら宍戸さんがさんに惚れ「よっしゃあああああちょっと行ってくるわ」そうですかよかったです」

宍戸はと同じように鳳のスカッドサーブもびっくりのスピードで部室から駆け出して行った。「おー頑張りいやバカップルの片割れー」侑士がニヤニヤしながら声を張り上げる。正直キモい。日吉はため息をついて湯呑を持ち上げた。え、宍戸あいつのこと好きなのあれで隠してたつもりだったのかよ。で宍戸のこと好きなのバレバレだけど。宍戸はには甘いんだよなーなんだかんだ。もうじきやってくるだろう跡部にどやされないように俺たちは着替えを始めた。



それなりの重病





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