「」 呼ばれてわたしは振り返った。自分でもひどい顔をしていたと思う。目の前に立つわたしの永遠のライバルが相手でなければこんな顔は晒せない。シルバーはどんな表情をすればいいのかわからないようだった。 「シルバー、わたし悔しい」 黙り込むシルバーにわたしは一方的に話しはじめた。 「あの子と話がしたかった。あの子ともっとバトルしたかった。あの子ともっといろいろなところに行きたかった。いろいろな人に会いたかった。もう一度レッドさんと戦いたかった。挑戦者と戦いたかった。あなたと戦いたかった。それなのに、」 わたしは言葉を詰まらせた。言葉にするのが、ひどく恐ろしかった。言葉にしてしまったら、また泣き崩れてしまいそうだった。 シルバーが無言のまま腰を下ろすと、彼の隣にいたバクフーンも一緒に屈み込んだ。シルバーは冷たい石の手前に一輪の花を置くと、静かに立ち上がってわたしを見る。バクフーンは低く寂しそうに唸った。 「それなのに、あいつは死んじまった」 わたしが言えなかったことを彼は言った。奇妙なほど淡々とした声音だったのは、きっと彼なりに思うところがあって、それを隠し通そうとしたからだろう。彼は昔から素直になれない人間だ。 「お前、トレーナーやめるとか言わないだろうな」 「まさか」 とは言ったものの、迷っていた。メガニウムが死んで、わたしはどうしたらいいのかわからないままだった。何と言い直せばいいのかわからずに目を逸らすと、シルバーはお得意のきついセリフを一言、 「お前はその程度のトレーナーってことか」 鋭い眼光とともにわたしに浴びせた。迷っているのを見抜かれてしまったわたしが苦い顔をするとシルバーはふん、とすました様子で(まったく素直じゃないやつ!)続けた。 「お前がそんなんじゃ、負けっぱなしの俺はどうなる?たったのメガニウム一匹がいなくなった程度で心が折れちまうような軟弱なやつだったのか?」 「たったのって…」 「逃げるな」 彼はまた鋭い目でわたしの目を見た。 「答えろ。続けるか、続けないか」 長年競い合ってきた人間はやはり違う、何もかも見透かされている。内心苦笑しながら思う。尊大だけどいいやつなのよね、などと考えられる余裕が出てきたのはシルバーがわたしをどうにかして慰めようとしてくれたからだろう。あとでお礼言わなくっちゃ。 「わたしはもっと強くなるよ」 「当然だ」 俺も強くなる、とシルバーは言った。それからバクフーンの背を撫で、わたしに言う。 「今回慰めてやったんだから、バクフーンが死んだら、その時は」 「わかってる。ありがとう」 「礼ならメガニウムに言え」 わたしはしゃがみ込んで、メガニウムの墓に向き直る。せっかく摘んできたのにわたしの手の熱で萎れてしまった花束を墓前に備えた。途端に視界がぼやける。 「なんだよ、泣いてるのか」 シルバーは隣にしゃがみ込み、わたしの頭をぽんぽんと軽く叩いた。ああ、わたしシルバーに甘やかされてる。滅多にないことだから、遠慮なく甘えさせてもらおうか。 |