I was born

in the folish galaxy.


つややかな桃色の髪と、おそろいのぷっくりしたかわいらしいくちびる。色白の肌はどこまでもなめらかだ。くりりと大きな目はきらきらと輝いていて、極めつけは世の女性たちがうらやむ抜群のスタイル。桃井さつきという女はどこまでも完成されていた。なによちょっとばっかし顔が良いからって、とむきになって嫉妬する人は数知れず。そんな醜い感情が溜まりにたまった結果、さつきの頭上から植木鉢やバケツいっぱいの水や石が落ちてきたり上履きの中に画鋲や虫が詰め込まれていたりして、そのたびにわたしは彼女に泣きつかれたものだ。ちゃん、ごめんね、大ちゃんたちに迷惑かけられないの、なんて言って。わたしはそのときからどこまでもさつきに甘かったから、裏で何度となく彼女に危害を加える女の子たちを「成敗」してきた。

けれど、まああの子たちがそう思うのもわからなくもない。久しぶりに再会してバニラシェイクを啜りつつ青峰への愚痴をたれるさつきを見ながらふとそんなことを考える。前述のとおりさつきは容姿面ではパーフェクトな女だ。陰湿な手段に出たりあからさまに悪口を言うことすらなかったけれど、わたしだって彼女をねたんでいた。でもそれ以上に彼女が好きで、所詮ただの羨望止まりだったのだが。

それに加えて彼女は黒子に恋してからますます可愛くなった。恋をすると女は化けるというのは本当だったようだ。ときにまわりが見えなくなえるほどに黒子への愛をアピールする。でもわたしは知っている。「トリートメントを変えてみたの、テツ君気づくかなあ」「いいにおいでしょう、テツ君はバニラシェイク好きだからバニラの香りのリップクリーム探したんだから」…。キセキの世代の男子たちの前では決して言わないけれどわたしにだけは教えてくれるのだ。特別だよ親友だもの、という彼女の言葉はいやに甘美で心地よかった。中途半端なことに、結局はわたしは彼女を恨み切れなかったのだ。

容姿だけでなく中身までも日に日にかわいくなっていく。どうあがいたってああはなれっこないのだ。たとえどれだけ手足をじたばたさせても空を飛べないように、どうしてもかなわないことというのは、ある。努力で補えないもの、それがキセキの七人の持つ「才能」だ。図らずも黒子と同じ高校に進学し、わりと近くで彼のプレーを見ているが、努力してもダメなものはダメなのになあ、なんてマイナス思考に陥ってしまう。羨ましい。あの美貌が、あの精神力が、あの愛嬌が、わたしになくてさつきにはあるすべてが。どろどろした醜悪な感情を抱えながら、しかしさつきを憎むことなんてできない。どこまでいっても彼女のことは大好きで仕方がない。口内に広がった塩辛い味をごまかすようにわたしは口の中にコップの底の氷を放り込んだ。




中学のときからずっと一緒で、女同士のいろいろなトラブルに巻き込まれるたびに守ってくれた子。私なんかよりずっと強くて、それでいて私よりもずっと小柄で細くて壊れてしまいそう。ふわふわしたショートカット、だらりとした服装、という女の子でなければ様にはならない。本当はかわいいのにどうしてこんなにも身なりに気を使わないのだろう!素朴で飾らないのも彼女の魅力のひとつではあると思うけれど。きーちゃんから「桃っちとっちって真逆っスよね」と評されるのもなんとなくわかる。
私はテツ君に恋してからは自分磨きに気を使うようになって、ますますが理解できない。こんなコスメ使えばいいじゃない、今度一緒に服を買いに行こう、何度も誘いに誘ってようやくまともに容姿に気を使うようになってくれたは段々とかわいくなってきた。なんだか自分の妹が育っていくようでほほえましい。

と、ここまで言うと私はにべた惚れしているように思えるけれど、そうでもない。私はに心底嫉妬していた時期があった。
はテツ君に告白されたことがある。あくまでも噂だし、本人から言質をとれるほどの勇気は私にはなかったので事実かどうかはわからない。そもそも影の薄い彼のことが校内に急速に広まる方がおかしいのだ。私はそう決め込んでと接していたけれど、彼女との何気ない会話の中にテツ君の話題が出るたびに敏感に反応してしまう自分がいたのもまた事実だった。

どうして。私の方がテツ君のことを好きなのに。好きになってもらえるように努力して努力して、でもその努力はテツ君に悟られないように必死で自分を磨き続けていたのに。なにもしないが、関心もないが、どうして。示し合わせたように二人が同じ高校へと進学したのも気になった。青峰君が気になるし、と口では言ってきたものの、テツ君とのツーショットを見たくなかった、というのも桐皇へ進学した要因の一つではある。

ばかみたい。幸せそうにハンバーガーにかぶりつくを眺めながらテツ君の好物のバニラシェイクを啜った。のいない桐皇ではどろどろした僻みや妬みばかりが頭の中を駆け巡り続けることもしばしばあった。けれども久しぶりに再会して、こうしてにこにこと笑う彼女を見てしまうとなんだか毒気が抜かれてしまった。どこまでいっても私はが大好きで仕方がないのだろう。きっとそれは、憎しみと表裏一体なのだ。


ばかばかしい銀河系でうまれた



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