府立四天宝寺中学校一年、遠山金太郎。誰よりも怪力で、誰よりも無邪気で、誰よりもお騒がせな奴で、それでいて憎めない、かわいいかわいいわたしの弟みたいな子。小さい頃から家が近所だったということで家族ぐるみの付き合いをしている(そんなに前から関西に住んでいるにもかかわらずわたしは相変わらず関西弁を使いこなせないままだ、情けない)。天真爛漫な金ちゃんはまだまだ子供だ。たった二歳しか違わないのに、わたしと同学年の男子(例えば白石君とか)と金ちゃんとでは言動に差がありすぎるのだ。前者を金ちゃんと比べると、前者がどんなに馬鹿なことをやっていたとしても大人びてみえる。金ちゃんを子供扱いしたいわけではないのだけれど、どうしても世話を焼きたくなってしまう。いい加減わたしも金ちゃん離れしたいんだけどな。そう思っていた矢先だった。

「ねーちゃん、ワイ病気みたいなんや」

金ちゃんが珍しくげっそりした顔で相談に来た。何かと思って事情を聞いてみると、実にかわいらしい病名が発覚した。

「あんな、同じクラスにって子がおるんやけど、のこと考えると心臓がぎゅーってなって、苦しゅうなるからのこと考えたないのに考えてまうんや、ほんでとおるとめっちゃ楽しいねんけど、が行ってまうとまた心臓がぎゅーってなるんや、ねーちゃん、ワイ心臓の病気かもしれへん」

ついに金ちゃんにも春が来たか!親心に似た嬉しさが込み上げる。なんだかほほえましくてついついにやけてしまっているのが自分でもわかった。

ちゃんってどんな子なの?」
「めっちゃかわええ!」
「なるほどねー、あとは?」
「かわええ!」

……恋は盲目ってやつかな、聞いても「かわいい」以外の長所に関する情報は手に入らなさそうだったからもう聞くのはやめた。せやけど怒ると白石より怖いんやで、金ちゃんのアホー言うてビンタしてくるんやでー、おまけの情報も追加された。金ちゃん尻に敷かれそうね、と言うと金ちゃんは唇を尖らせて拗ねた。かわいい。

「金ちゃん」
「なんや」
「その子と結婚したい?」
「うん」
「じゃあ、あんまり迷惑かけちゃだめよ嫌われちゃうから」
「ねーちゃん」
「ん?」
「結局ワイ病気なん?」

本当に不安そうな顔で首を傾げる。きっとちゃんも金ちゃんにめろめろになってくれるよー、とはぐらかすと、病気なん?病気なん?と迫られる。あーもうかわいい。

「そうだね、病気だ」
「なんて病気?」
「んー、それは白石君に聞いといで。白石君のほうが詳しいから」

にっこり笑うとずるいわー!と金ちゃんが叫んだ。何がずるいんだかよくわからないけれどとりあえず金ちゃんかわいい。白石ーワイ病気なん?聞きにきた金ちゃんを白石君は適当にあしらって、冗談やめろやーと目でわたしに訴えかけてきた。

弟みたいなこの子が恋をした。いつかこの恋が成就したら、金ちゃんはわたしにこうやって話し掛けて来なくなるのだろうか。白石君がわたしの側に来て、子が旅立つんは寂しいなあと感慨深げに言った。





かわいい病名

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