耳を澄まさなければ聞こえないほどかすかに、パチパチと火花の散る音がする。先刻まで花火に火をつけるためのライターに興味津々だった今剣は、いまはすっかり目の前の線香花火の光に夢中になっていた。

「あるじさま、こんなものをみつけました!」と昼間に花火の入った箱を抱えて部屋に飛び込んできたのは今剣だった。彼がこうして主の部屋に突然駆け込むのは別段珍しいことでもない。彼は箱の中身はどうやら素敵なものらしいとはわかっていたようだが、それがなんなのか知らなかった。それならば教えてあげるから日が暮れてからまたおいで、と彼女が今剣に告げたのが数刻前の出来事である。

「あるじさま、これは……これはなんというのですか?」
真っ赤な目を花火の橙色にむけてきらきら輝かせながら彼は問う。

「それは線香花火というのよ」
「はなび!たしかにおはなみたいできれいですね」

火花はちりちりと揺らめきながら少しずつその勢いを失っていく。そんな様子を見る今剣の白い顔も花火越しに揺らいで見えた。
彼はまたうっとりとした表情で、

「ほんとうにきれいです。まるであるじさまみたい」

そうつぶやいた。主は照れたのか何か言おうと口を開いたが、声を発する前に華やかな火種はあっけなく落ち、みるみるうちに砂の中に同化した。ほのかな明かりが失われた庭はもとの闇に包まれる。

主がいたたまれずに思わず目の前の白い顔を見れば、その表情は変わらないままだった。何と声をかければよいのかわからず、「まだ新しいのがあるわよ」と箱の中からもうひとつ線香花火を取り出そうとすると、「いやです」と存外つめたい声が返ってきた。

「どうして?」
「かわりのあるじさまなんていりませんから」

いつもと変わらない笑顔が闇夜にぼうっと浮かんで見える。彼の赤いまなざしは、砂にまじって消えたはずの先の火種をまだいとおしそうにながめていた。


咲きては落つる


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