チマリちゃんってほんとかわいいよね!と目をキラキラ輝かせてバトル中にもかかわらずジムに飛び込んできたこのキングオブKY女が俺と同い年であるという事実をそう簡単に認めたくはない。こいつと出会ったのはつい最近で、こいつがジムに挑戦に来たことがきっかけだった。まだリーグにも行っていないだろうし彼女の手持ちのレベルは低いしと手加減して闘ったら彼女の手持ちの最後の一匹がまさかの100Lvハガネールだったときの絶望感は今でも忘れ難い。それまでの五匹の育成の手の抜きっぷりは何だったんだと聞けば、いやあハガネールかわいくって、という意味のわからない答えが返ってきて、いやお前もうちょっとムラなく育てろよと力が抜けてしまった記憶がある。 そしてチマリの可愛さについての叫び声をジム内に轟かせてから、そいつ…はやっと俺がバトル中であることに気が付いたらしい。ぼっと爆発したように顔を真っ赤にした。挑戦者は口をぽかんと開けていて今の状況が飲み込めていないようだ。うちの馬鹿がすまないことをしたな、と謝るとようやく現実世界に引き戻されたようだった。あとでたっぷり叱ってやるからそこに正座!とに指示し、意識をバトルへ戻す。挑戦者は強く、すぐにがいたことなど忘れてしまうほどバトルに没頭した。 *** ようやっと競り勝って、いいバトルだったなと相手をたたえる。もちろんお世辞でもなんでもなく(そもそも俺はお世辞なんか言えるタイプではない)本心から。緊張感が抜けたのと負けた悔しさで挑戦者は肩から力が抜けていたがどうにか慰めてポケモンセンターに行って回復して、それから修行でもなんでもして俺を負かすくらいのトレーナーになってみせろとまで柄にもなく激励すると、彼は涙目になりながらジムをあとにした。数多く経験してきたバトルの中でもかなり後味の良い勝利だったなとひとりごちる。と、部屋の隅っこからよく通る声が叫んだ。 「デンジさんわたしのこと忘れてません?」 ぶっちゃけ、忘れてた。俺がしれっと言うとはぷうっと頬を膨らませてずかずかとこっちへ歩み寄ってくる…途中で配線に足を引っ掛けてべたんと転んだ。まったく情けない女だいい年して。転び方から運動神経の無さがにじみ出るように露見している。 「ひどいですよね仮にも彼女なのに」 「俺今彼女いないはずなんだが」 「冗談には冗談で返してくださいようデンジさん」 「断る。あとチマリが可愛いのは認めるが嫁にはやらん」 「えっあわよくば連れ去ろうと思ってたの全部バレてたってこと…?」 「おい今なんて言った」 冗談ですよ冗談、とは再び頬をぷくっと膨らませた。こいつはそろそろ年相応の行動をとることを覚えた方がいいと思う。いちいち言動が子供っぽいし中身も幼いし外見も幼い…のはまあどうでもいいか。付け加えておくが周りになんとなく幼い人間が多いが俺はロリコンではない。とりあえずはもう少し大人になっても良い、むしろなってほしいところだ。 「…嫉妬させる作戦は通用しませんでしたか」 「何の話だ?」 「あっべつにそのオーバ兄さんに吹き込まれたとかそういうわけではなくってですね」 「なるほどオーバに吹き込まれたんだな」 「どうしてわかったんです…」 「お前自分で言ってたし」 そんなあ、とは自分の口を手で覆う。しぐさの一つ一つが可愛らしいあざとい女だ。本人は無自覚でやっているからあざといも何もないが。それよりも嫉妬させる作戦とはなんだったのか。チマリのくだりがもしそれに該当するならば俺はリーグまで出向いてオーバを徹底的に殴り倒すこともいとわない。嫉妬させる作戦ってなんだ、と聞くとは口を水揚げされた魚みたいにぱくぱく動かした。その口から出るのは息ばかりだ。 「チ、チマリちゃんのこと好きって言ったらデンジさんが嫉妬してくれると思って」 「今日は絶好のオーバ抹殺日和だな」 「ぎゃあああああそれだけはやめてええええええ」 色気のかけらもない悲鳴だがこの声を出させる(簡単な話、をからかえばいいだけだ)のはわりと楽しかったりする。あたふたと腕を振り回すをエレキブルに羽交い絞めにさせると、はおさまるどころか全身を使ってエレキブルの腕から脱出しようともがきだす。やばいな超面白い。俺はSっ気がないわけではないらしい。 「で、俺に嫉妬してもらいたかったのはどうしてだ?俺に惚れてるのか?」 「はいもちろん」 「………それは冗談だよな」 「何言ってるんですかわたしはいつだって本気ですよ」 夏でもないのに頭が痛くなってきた。熱中症にかかったように頭がぐらぐらする。ときおり思うのだが、もはやこれは確信に変わった。この女、絶対に有害な電波でも出している、そうに違いない。 |
ユウガイデンパ |